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この記事の概要
賃貸マンション経営において、入居者の確保と賃料の維持・向上は生命線ともいえますが、それを阻むのが経年による価値の下落です。劣化や老朽化によって建物の性能が低下していくだけでなく、デザイン性が古くなり見劣りする、新しい機能や商品が発表されることによって現在の仕様が相対的に陳腐化するなどの「社会的劣化」も付いて回ります。こうした要因を放置すると、賃貸マーケットから嫌気され、入居者の早期退去やその後の空室期間の長期化につながりかねません。
建物の劣化や老朽化などは、定期的なメンテナンスや修繕などによってある程度カバーできますが、以前の状態まで戻す行為は「機能回復」に過ぎず、借り手にとって新たな魅力付けにはなり得ません。以前の性能・仕様以上に「機能向上」させることで初めて、賃貸経営における価値や競争力が生まれます。
(図1)「修繕」「バリューアップ」の考え方
「機能向上」のタイミングとしては、想定しているメンテナンス費用や原状回復費用の見直しにもつながるため、老朽化や劣化によるメンテナンス時期や入居者が退去した時が合理的といえます。
一般的に、入居者が退去した後には原状回復工事を行います。室内クリーニングを実施するほか、汚れた壁紙を交換して前入居者の生活感を払拭するなど、次の入居者に気持ちよく住んでもらうための手順となります。原状回復だけですぐに入居者が見つかれば問題ないのですが、近隣の物件と比較して設備や仕様面で不利な要素がある場合は、設備更新などによって新たな魅力付けを行い、競争力を高めていくことが大切です。
投資には費用がかかりますが、適切な投資額は、そのままにしておいた場合の空室期間や賃料減少による損失額と、価値向上による将来の賃料差などから適切な支出額を決定します。つまり、一定のコストをかけても将来的に採算が取れるならば、意味のある投資になるということです。
賃貸不動産業界の専門紙『全国賃貸住宅新聞』では毎年、入居者に人気の設備ランキングを調査・発表しています。賃貸住宅における設備の需要動向を知る上で役立つと思います。インターネットや宅配ボックス、オートロックなど、時代に応じた設備投資の必要性が分かる内容です。単身者とファミリーとでは求める設備や機能が違うので、想定入居者や地域ニーズなどに応じて価値向上を図っていきたいものです。
(表1)賃貸住宅における人気設備ランキング
出典:全国賃貸住宅新聞『入居者に人気の設備ランキング2022』(2022年10月17日発行号)
【参考:その他差別化できる設備や仕様の例】
一棟マンション投資の経営面での魅力の1つは、共用部においてバリューアップが図れる点です。マンション1室だけの賃貸経営では、外観やエントランスなどを自力で改変できませんが、一棟投資であれば、建物全体のバリューアップにより賃貸競争力の大幅な向上が図れます。(表2)で見ても、オートロックや宅配ボックス、防犯カメラなど共用部のバリューアップの手段は多々あり、地域ニーズに応じた投資方法が検討可能です。特に、宅配ボックスや防犯カメラなどは「後付け」による機能追加が容易です。こうした建物の改変が不要な工事は手軽なバリューアップ方法といえます。
(表1)は入居者から見た設備ランキングでしたが、「賃料アップが期待できる設備」の導入という経営的な視点からの設備投資も考えられます。以下の(表2)は、賃料に差が大きく出る設備・仕様の条件例です。
(表2)家賃の差額が大きく出る設備・仕様の条件TOP10
出典:LIFULL HOME’S『家賃の差額が大きい条件ランキング』(2023年5月)
調査概要 ・対象エリア:一都三県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)・対象物件:LIFULL HOME’Sに掲載された築40年以内、駅徒歩指定無し(条件に徒歩分数が含まれていない場合)、15平米以上40平米未満の居住用賃貸物件・対象期間:2022年4月~2023年3月・家賃:月額賃料の中央値・ランキング圏外の調査条件:モニタ付インターホン有無、800m以内のスーパー有無、駅徒歩10分未満/以上、800m以内のコンビニ有無、室内洗濯置き場有無
宅配ボックスの有無によって賃料に月額21,000円もの差が出るのは驚きです。年額約25万円に戸数を掛ければ、設置メリットがご理解いただけるかと思います。
人はどうしてもモノを外見で判断しがちです。老朽化などで建物外観やエントランスまわりに「古い」「ダサい」といったイメージが出てくる場合などは、デザイン的なテコ入れを検討する必要もあるでしょう。外壁やエントランスなどの印象を変えることで、家賃や入居率のアップにつなげたり、最終的な売却価格を高めたりすることも可能です。
設備投資の巧拙は、一棟マンション投資経営における利益率を大きく左右する場合があります。こうした入居者の人気設備や賃料アップ可能な設備については、これから一棟マンションを購入される方は物件購入選定時の検討に、既に賃貸経営されている方はバリューアップのための投資計画の参考にしていただければと思います。
日経BPコンサルティング
※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。
※ 2023年10月30日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。
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